アメリカ人アーティスト、ジョー・ブレイナード（Joe Brainard）の作品集。漫画家であるアーニー・ブッシュミラー（Ernie Bushmiller）が生んだアメリカの長寿連載漫画「ナンシー（Nancy）」。作者は「ナンシー」を題材にし、1963年から1978年の間、アプロプリエーションとして100点以上の作品に取り入れ、この昔ながらのキャラクター「ナンシー」を驚くほど様々な空間へと連れ出した。作中における「ナンシー」の存在が生み出す違和感は、驚きや複雑性を生み出している。本書は、作者の「ナンシー」シリーズで制作されたテキスト、ドローイング、コラージュ、絵画作品を集めた初めての作品集であり、50点以上収録されている。

作者が描いた「ナンシー」は、ハイアートとローアート、詩的なものとポルノ的なもの、そして現実離れしたものと滑稽なものとの間を作品の中で横断する。仮想世界に入れ込まれようが、エロティックな冒険に駆り出されようが、レオナルド・ダ・ヴィンチ（Leonardo da Vinci）やロバート・クラム（R. Crumb）、ラリー・リヴァーズ（Larry Rivers）、ウィレム・デ・クーニング（Willem de Kooning）といった様々な芸術家が描いたように登場しようと、「ナンシー」は自身が置かれた二次元の世界を超えていくだけでなく、大いに楽しく遊びまわっている。

いたずら心と天真爛漫で無垢な心、無礼なさまと不思議なさま、天然と計算高さの間に絶妙なバランスが漂い、我々を魅了する。それが全て積み重なり、大きなウィットと喜び、比喩的な表現の豊かさ、驚きと繊細さが同居する、複雑かつ洗練された世界観へと昇華されている。

ブレイナードは本当にどんな注意を払われた意識も通り抜けて、人生における小さな喜劇を作り出す達人であり、これまで聞いたことのない笑いを届けてくれる。そしてナンシーは、心が踊る麺のようなリボンをくせ毛に着け、現代のデカルトの名に相応しい存在だろう。－ アルバート・モビリオ（Albert Mobilio）、Bookforum