水戸部春菜は、状態の記録をテーマにドローイング作品を発表しています。瞬間を切り取ったかのような線を描き、その対象のスピード感と躍動感を感じさせる水戸部の作品。この作風は、大学の卒業制作で、自身も取り組んでいた和太鼓のパフォーマンスを描いたことがきっかけとなり生まれたものです。「演奏している」状態だけを画面に起こしたいと思ったが、客体のポージングを見て描いてもうまくいかなかったと水戸部は話します。和太鼓の音の美しさやスピード感、演奏のフォームをもっとしっかり表現したいと感じた彼女は、映像、写真、客体の動きなど様々な媒体を参照しながらドローイングを行いました。こうしたドローイングを行って絵画的な手段を使ったときには、客体からは面ではなく「線」しか取ることができなかったと話します。以降、水戸部は写真や映像の誕生といった技術の発展以降の平面作品の存在意義を模索し、より絵画的な表現方法を追求しています。
水戸部の制作においては、アーティスト・イン・レジデンスも重要になります。これまでに岐阜や静岡でのレジデンス制作、現在は「YOKOSUKA ART VALLEY HIRAKU」(神奈川)に活動拠点を移し、場所にこだわらない制作を続けています。中学生の頃に、テレビで北海道の美術工芸高校の特集を見て、入学を決めたと言う水戸部。フットワークの軽さはこの頃から変わってないようです。まったく知らない土地の人々と関わり、自分がよい意味でぶれることで新しい表現が生まれ、制作について多くのヒントをもらっていると彼女は話します。近年、これまで抑えていた自身の記憶や感情が放たれ、少しずつ作品に現れてきたと言う水戸部。今回の個展では、色の使い方や客体の線だけではない曖昧な線も表現するなど、水戸部の感情の振れ幅を見ることができるかもしれません。OIL by 美術手帖への出品作から、その片鱗を感じてください。
《Equestrian drawing》(2023)
《花笠 drawing》(2023)
《能 drawing》(2023)
※数ヶ月以内に他作品の追加出品を予定しております。
プロフィール
1995年神奈川県生まれ。2018年東北芸術工科大学デザイン工学部グラフィックデザイン学科卒業。主な個展に、「running woman」(galleryN、愛知、2020)、「don't try」(西武渋谷店、東京、2021)、「town」(galleryN、愛知、2022)、「Happy End」(IDEE 自由が丘店、東京、2022)、グループ展に、「わからなかった昨日の翌日」(豊田市美術館ギャラリー、愛知、2021)、「nine colors XVI」(西武渋谷店、東京、2022)など。主なレジデンスプログラムに、「HARAIZUMI ART DAYS!」(静岡県原泉全域、2020)、「きそがわ日和 アーティスト・イン・レジデンス 水戸部春菜 腹の中」(岐阜県美濃加茂市、2022)など。受賞歴に、「群馬青年ビエンナーレ」ガトーフェスタハラダ賞(2021)、「第23回岡本太郎現代芸術賞」入選(2020)、「アートアワードトーキョー丸の内」入選(2018)などがある。
Information
水戸部春菜個展「Vague Show」
会期:2023年2月18日〜3月19日 |