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今井恵の作品販売がスタート。コミュニケーションにおける自己と他者の認識の差異を体感する表現

OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、今井恵です。継続して描いている2つのシリーズから、新作を含む作品を紹介いたします。

文・構成=髙内絵理(OIL by 美術手帖)

今井恵のアトリエ

 今井恵は、版画の技法を用いながら絵画の可能性を広げ、「ものごとのとらえ方」や「視点の選択」を主なテーマに制作しています。現在の作風には、2度にわたる海外での経験と、自己と他者の認識の差異への考察が影響しています。版画を学んだ大学時代、工房ではシルクスクリーンプリントに油性インクが使用されており、当時はその特性を活かしインクを刷り重ねることによって厚みを出す技法で制作していました。2013年に赴いたロンドンでは、環境問題に意識が高く油性インクを使わない工房が増えており、今井が滞在したスタジオでも水性インクのみという環境でした。インクが変わったことで画面はフラットになり、それが新しい表現のきっかけとなりました。

 帰国後、今井は東京藝術大学大学院に入学。2018年、交換留学で赴いたスロバキアでは、バックボーンが異なる学生と生活をともにし、ものごとに対する視点や感覚は環境によりまったく異なることを改めて実感、そこから多角的な視点で鑑賞できる表現を模索します。あるとき、透明インクに顔料の粉を落として版を刷ってみたところ、そのストロークによって偶然現れたイメージが、以前訪れたアイスランドの雪山の風景に見えたことから、意図せずに描いたものに勝手に意味を見出してしまう自己の感覚に気が付きます。そしてその一連の現象に関心を持ち始めました。

 また、鑑賞者が「(モチーフが)海岸に佇んでいる女性にしか見えないですよね」と、まるで皆もそう見えているかのように確信を持って伝えてきたことから、「自分の記憶や経験に基づいて、対象を瞬時に判断する感覚は、自分も他者も同じであるはず」と人は無意識にとらえがちであると感じた今井。これらの現象から着想を得て、絵画のなかで人間の「認知の仕組み」を刺激する表現に展開、現在の「patterns」や「diamonds」シリーズが生まれました。色彩もブルーやアースカラーなど自然や日常の風景を想起させ、個人の記憶により接続しやすいものへと変化。そこから生まれる「認識の差異」の体感を試みています。

 シルクスクリーンを刷る過程で、身体を介することで発生するエラーのイメージを起点とし、コミュニケーションにおける自己と他者の認識の差異を体感できる表現に展開。「ものごとの真贋や錯覚について考えるきっかけになれば」と話す彼女の表現にふれることで、ものごとを様々な視点からとらえることができる可能性や、他者との感覚の差異を体感してみてください。

 

 

 

《diamonds (land)_lI》(2023)

 

《diamonds (land)_lII》(2023)

 

《dots (mono) 》(2023)

 

《diamonds (blue・silver)》(2023)

 

 

プロフィール

今井恵

奈良県生まれ。2019年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。ロンドン、東京、スロバキアを経て、現在は茨城県のスタジオを拠点に活動。シルクスクリーンを刷る過程で身体を介することで発生するヒューマンエラー(ミスプリント)をアイデアの起点とし、「ものごとのとらえ方」や「視点の選択」をテーマとし制作している。最近では、版を刷る行為を通じて予期せぬイメージを即興的に作り出し、そして反復する「patterns」「diamonds」、テーブルに植物などのオブジェクトを置き、嘘の影のイメージを施した「shadows」や、鏡にストライプ模様をシルクスクリーンプリントした「mirror(stripe)」などのシリーズを制作しており、いずれの作品も人の視覚や経験から生じる認知の仕組みについてのアプローチがなされている。

 

 

 

 

 

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