熊倉涼子の作品販売がスタート。歴史と絵画の結びつきを積層的に表現
OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、熊倉涼子です。継続して描いている2つのシリーズから、作品を紹介いたします。
文・構成=髙内絵理(OIL by 美術手帖)
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熊倉涼子は、天体や地球、生物など普遍的なものをテーマに、様々なモチーフを異なる描写で描き、複雑に多層化した絵画を発表しています。当初、熊倉はぬいぐるみをモチーフにしたシリーズを発表していましたが、ぬいぐるみの情報量の多さが優先されてしまい、技法やモチーフ同士の邂逅など、絵画のなかでの試みが伝わりにくいと感じた熊倉。試みはそのままに、違うモチーフでの表現を模索し始めます。試行錯誤するなかで、ペーパークラフトでつくられたモチーフに躍動感のあるストロークを重ねた「塗り絵」シリーズも展開。写実的に描くだけではなく、絵画が絵具の積層でできている構造に着目、強調して描いたシリーズです。
転換となったのは、歴史上の言説に興味を持ち本格的に調査を始めた2018年。自然科学史上の言説から着想を得て、熊倉が作成した地球のペーパークラフトと古代の人々が考えた地球の姿を重ね、絵画に表現した《The Earth》を発表。熊倉は、歴史におけるふたつの意義が、絵画においても同様であることを見出します。ひとつは、歴史は世界への認識が変遷する様そのものであり、それが幾重にも積み重なっているということ。熊倉は、歴史の積層と自分の制作過程には共通項があると考えています。人々が仮説を立ててその検証を繰り返し現在の共通認識にたどり着いた過程に、自身がモチーフを作成し、探りながら絵具を重ねて一枚の絵画を完成させるまでのプロセスを重ね合わせます。
また、歴史には消えゆく変遷を対象化して記述、記録された結果を指すことがあります。表現としての絵画の意義を追求する熊倉は、絵画においても同様に記録的な側面に着目。歴史の意義と表現としての絵画の意義の共通項から着想を得て、近年は「歴史」をより象徴する、消えゆくイメージを重ねて描いた「Transient images」シリーズへと発展していきます。
5月9日から始まるグループ展では、「Transient images」シリーズを発表。「一時的な」という意味を持つ「transient」。現在、目に見えているイメージや概念について現代を生きる熊倉が絵画に記録。同時に、いつかは消えゆく可能性をはらむ歴史認識の刹那性や不確かさも投げかけます。
「Transient images」シリーズ
《Transient Images #5》(2021)
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《Transient Images #6》(2021)
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「塗り絵」シリーズ
《Snake》(2022)
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《Apple》(2022)
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プロフィール
熊倉涼子
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1991年東京生まれ。2014年に多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。歴史のなかで人々が世界を理解しようとする過程で生まれたイメージをもとに、絵画を制作。あるひとつの事柄に対して多面的な視点で図像を集めて作品を構成している。そうしたモチーフを、写実的な描写や落書きのような線などの複数の描写法を混ぜたり、画中画やだまし絵の手法を用いて描くことで、視覚的に揺さぶりをかけ、目に見えるものとは何かを問う作品を制作している。 主な個展に、「Transient Images」(日本橋三越本店美術サロン、東京、2022)、「Pseudomer」(RED AND BLUE GALLERY、東京、2018)など。「第34回ホルベイン・スカラシップ」(2021)奨学生、「群馬青年ビエンナーレ」(2019)に入選。
Information
「ホルベイン・スカラシップ成果展2023」
会期:2023年5月9日〜20日 |
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