菅雄嗣の作品販売がスタート。相反する空間を往来する絵画
OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、菅雄嗣です。5月26日よりMAHO KUBOTA GALLERYでは初となる個展「liminal」にあわせて、継続して描いているシリーズと個展発表作を出品いたします。
文・構成=髙内絵理(OIL by 美術手帖)
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菅雄嗣は、相反する要素を絵画に取り込み、空間を意識させる作品を発表しています。モノトーンなど少ない色使いを基本とし、厚く油絵具を塗ってそれをペインティングナイフやヘラで削いだ色面の絵画と、薄塗りからなる色面の絵画を対比的に描いてきました。この2つの絵画を隣り合わせに並べた「Still life」シリーズ以降は、それがより強調されるようになります。いっぽうの画面から削いだ絵具をもうひとつの画面に塗ることで、絵画空間を「行き来」させるという、近年、狭間や境界を「移行する」状態に関心がある菅がたどり着いた新たな展開です。
今回の個展のテーマともなった「リミナルスペース」。この言葉はとくにコロナ禍以降にオンライン上で拡散したインターネットミームで、人がいなくなって閑散とした商業施設などの写真が特異な感情を醸成する現象を指します。また、その語源である「リミナリティ」とはイギリス人人類学者のヴィクター・w・ターナーが提唱(*)。「境界性」と邦訳される「リミナリティ」は「曖昧で不確かな属性」「どちらともとれる状態」を示し、本展タイトルである「リミナル」の語源ともなります。自身のテーマとこの言葉に親和性を感じた菅は、本展でこの境界を行き来する様を絵画に展開します。
これまでのシリーズに加えて、今回、CGで仮想の空間をつくり絵画に描き起こすシリーズと、長崎でかつて賑わいを見せていたテーマパークをモチーフに絵画を制作。既視感があるけれど実際には「存在しない」空間と、現実に「存在する」リミナルな空間を描いて対比させることで、空間を「行き来」する新たな展開を試みています。
*──ヴィクター・w・ターナー『儀礼の過程』(2020、ちくま学芸文庫)富倉光雄翻訳 参照
《Church#1》(2023)
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《Still life #Ⅵ》(2020)
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《Still life #Ⅵ_Ⅱ》(2020)
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《triptych #2》(2021)
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プロフィール
菅雄嗣
1988年長崎県生まれ。2017年東京芸術大学大学院美術研究科修士課程油画専攻修了。モダニズム建築を想起させるような静謐でソリッドな構造を絵画に取り込むことで、空間のこちら側とあちら側を意識させ、現代における空間主義的な実験を繰り広げている。絵画の全面に鏡面を施し、そこに均一に絵具を載せたあと、絵具の一部を削り取って対象を構成していくネガポジ的な表現も印象的な若手ペインターである。主な展示に「SUMMER SHOW」(MAHO KUBOTA GALLERY、東京、2022)、「Mind Sights 小宮太郎 菅雄嗣」(MAHO KUBOTA GALLERY、東京、2021)、「Scraped painting」(WHITESPACE ONE、福岡、2017)、「Spring fever」(駒込倉庫、東京、2017)など。「第4回CAF賞」(2017)で齋藤精一賞を受賞。
Information
菅雄嗣個展「liminal」
会期:2023年5月26日~6月24日 |
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