小津航は、自身と日本美術史との接続を模索しながら、東洋美術と西洋美術との相違から着想を得て、モチーフや絵画空間についての絵画を制作しています。小津には、りんごをモチーフに描いた作品が多くあります。海外で各地を訪れると、りんごはどのスーパーにも売っていて、かたちもほぼ同じであることに気づいたことをきっかけに描くようになります。りんごは人がイメージできる共通認識の最たるものと感じた小津は、りんごには各地での認識に差異があまりなく、赤い丸を描いてもりんごに見えてしまう面白さに惹かれ、描き続けていると言います。また、東洋美術の絵画空間に見られるような奥行きがない描き方から着想し、背景と空間の両面性を持つ「あいだ」を意識した描き方で、どこにでもりんごを置けるような空間を描きます。

　また、小津が近年、注目しているのが写真の登場とともに失われた絵画の「記録性」です。実際に存在している人物を描くことが前提であり、西洋では権威のある人物が描かれ、記録、保存されてきた人物画を、現代ではどう表現できるのかを追求したのが「Portrait」シリーズです。小津が描くのは、髪型と洋服から少しの属性が想像できる程度の目線が定まらない実在しない人物。誰かを想定して描いていないにもかかわらず、見る人にとっては特定の人物になりうるかもしれない普遍性を持たせたと言います。また小津は、「目の前で移り変わっていくものを留めたいという、人間の根源的な欲望が絵画の始まりだと感じる」とも話しています。

　制作の拠点である取手のスタジオ航大で制作を始めて9年が経ち、近年ではオープンアトリエも開催、スタジオ航大の認知拡大にも努めています。「作家は、生きているかぎり、活動を通して自身の作品や制作について言語化する必要とチャンスがある」と話す小津は、アトリエに招いたり、鑑賞者に伝える発信など「記録する」活動にも関心を寄せています。そのことで、なぜ絵を描くのかという根源的な問いの追求を続けていきます。

《Motifs》（2023）

《Face-Brilliant-》（2023）

《Face-Curly Hair-》（2023）

プロフィール

小津航

1991年東京都生まれ。2017年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。東洋美術の山水画、浮世絵、洋風画や西洋美術の空間やモチーフなど過去の美術作品を参照しながら油彩画を制作している。昨今は「静物画」、「風景画」、「人物画」という絵画の基本の主題を通じながら、東洋的絵画空間にみられる「画家とモチーフとの関係性」や「絵画空間の設定」といった関係に注目をして東洋美術を再考するような制作を行なっている。近年の主な個展に、「on the Table」（GALLERY MERROW CAFE、東京、2023）、「on the Ground / on the Table」（MARUEIDO JAPAN、東京、2022）、グループ展に、「スガオヅオー」（KOMAGOME1-14cas、東京、2023）など。ART FAIR TOKYO（2023）、Asia Now（パリ、2022）に参加。