木原千春は、エネルギーの源泉の創造をテーマに作品を制作しています。モチーフには動物や昆虫、植物や自身が惹かれた人物を選び、繰り返し描き続けています。かたちや存在の力を強く感じられる生物を躍動的に描き、初期衝動をいかに表現できるかを追求しています。
幼少期より画家を志していた木原は、高校生の頃、その気持ちを強く確信した印象的な出来事がありました。美術室でタケノコを鉛筆で画用紙に描いたとき、「線がまるで生き物みたいに生き生きと動き出す感覚を覚えた」と話します。いわゆるタケノコの輪郭をなぞる線ではなく、自身の感覚が具現化されて現れた木原独自の自由な線。自己表現としてまだ確立されていないが、たしかに「自分の感覚がつかめた」瞬間。画家としての方向性が見えた、というよりは「単純に楽しい、という感覚。楽しいことは続いていく」と振り返り、この初動のような「鮮度を大事に、生きた絵を描きたい」と木原は話します。
木原の躍動感のある絵は、技法にも特徴があります。画面と近い状態で描くほうが、感覚が表出しやすいということに気づいた木原は、キャンバスを床に置いてその上に乗り、キャンバスと向き合って描きます。自身の手を筆のように使ったダイナミックな表現に代表されるように、描きたいイメージにあわせて感情を自然に表現できる最適な技法を選択。また、動きは激しくとも集中しているあいだは「海の凪のような状態」と話し、豊かな時間のなかで、木原は絵と対話しながら描いていきます。人間の想像力を信じ、「自身の外側に世界が存在するように、内側にも無限に世界が広がっている」と話す木原は、同じモチーフを繰り返し描き、その瞬間瞬間に感じたことを反映していきます。制作のなかで、予定調和ではない動きを自身がしたときに、「驚きとともに人間の可能性を感じ、それが絵画の面白さでもある」と話します。
今回の個展タイトルは「Vitalism FLASH」。生命が一瞬の閃光として現れる感覚と、展覧会という、空間と自身の表現の一瞬の出会い、というイメージから「閃光」や「瞬間的場面」を意味する「フラッシュ」という言葉を選んだ木原。過去10回にわたり「Vitalism」というタイトルで作品展示を続けてきた彼女にとって、これまでの集大成ともいえる展示となっています。
《ANGRY CAT》(2022)
《CHARLES CHAPLIN》(2022)
プロフィ―ル
木原千春
1979年山口県生まれ。高校中退後、独学で絵画を学ぶ。1999年ギャラリー伝にて初個展。主な個展、グループ展、アートフェア参加に、「VOCA2006」(上野の森美術館、東京)、「Vitalism」(roidworksgallery、東京、2012、以降2014年を除き現在まで毎年開催)、「ペコちゃん展」(平塚市美術館、神奈川、2015)、「face to face Vol.II」(Bunkamura Gallery、東京、2022)など多数。その他、星野リゾート界長門のメインロビー作品制作(2020)、BSフジ『ブレイク前夜~次世代の芸術家たち~』出演(2016)、日本テレビ『THE ART HOUSE~そのアートは100年後に残せるか~』(2022)出演。日本の現代アートの魅力を発信するANAによるアートプロジェクト「OFF TO ART」に参加。ANAの国内線の機内放送にて紹介されるなど、その活躍に注目が集まっている。
Information
木原千春個展「Vitalism FLASH」
会期:2023年8月12日〜9月1日
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