川村摩那は、日本の文学作品や日本神話などに登場するモチーフやテキストから着想を得たイメージや、自身で書き綴った詩や散文から浮かび上がる情景や言葉などを用いて絵画を発表しています。川村は一般大学を卒業後、一般企業で働いたのちに美術の道を志し、京都芸術大学大学院に改めて入学。まったく異なる環境に飛び込んだ川村は、戸惑いながらも最初の学内発表で現在の作風にもつながる自分のスタイルを見出していきます。幼少期より詩や小説に親しみ、言葉の世界に魅了され、大学では日本近代文学を専攻して比較、横断する研究をしていた川村。「文字」なら自分も「描く」ことができるかもしれない、と絵のなかに文字を落とし込んだことが起点となりました。
あるとき、文字を書き連ねて「何か違う」と感じて水をかけて消したところ、文字が溶け流れて、違うところに描いたモチーフと交わり全部がひとつにまとまる様子を見て「自分が日常で景色を目にしたときの感覚に近いと思った」と話します。例えば、机の上のペットボトルは図像としてとらえられるが、その隣に貼ってあるポスターの掠れた文字はいったいなんと呼べるのか。そのような言語化できそうなものと、言葉では表しきれない空気感や印象が混在する世界が自身にとってのリアリティであると感じた川村は、その感覚を絵画に落とし込むことを試みていきます。
また、川村は文学における「迂回性」と絵画における「直接性」にも着目。例えば小説は、文字や単語の羅列を目で追って脳内で意味を再生して・・・・・・、とその世界観を感じられるまでに物理的に時間がかかります。いっぽうで絵画は、目で見たときの印象が先にあり、そこから事象を因数分解したりすることで意味を紡ぎ出していく。双方で流れている時間速度の差から、川村は、モチーフに文字と図像を絵画のなかに共存させて「文字を読む」行為と「文字や図像を見る」行為を促し、言葉の1次元的な世界と絵画の2次元的な世界を合わせる試みを追求しています。
今回の袁方洲との2人展は、時代によってとらえ方が変化する言葉の移り変わり、時間によってかたちづくられる物質の変化を通して、時の移ろいを体感する展示。これまでよく描いてきた既存の文学作品から着想を得たモチーフだけでなく、近年は自身で綴った言葉をモチーフにすることも始めたという川村。「OIL by 美術手帖」では、川村自身の「移ろい」も感じられる作品を発表します。
《たえま の たえま》(2024)
《いつもと変わり映えのない場所に辿り着く。》(2024)
※数ヶ月以内に他作品の追加出品を予定しております。
プロフィール
川村摩那
1995年兵庫県生まれ。2018年早稲田大学文学部日本語日本文学コース卒業。23年京都芸術大学修士課程芸術研究科美術工芸領域油画専攻修了。 日本の文学作品や日本神話などに登場するモチーフやテキストから着想を得たイメージや、自身で書き綴った詩や散文から浮かび上がる情景や言葉などを用いて絵画を制作している。キャンバスに描き重ねられた文字やモチーフのかたちが崩れて交わる様に、前後の文脈や受け手によって意味が変わる言葉というものの性質を重ねて表現している。主な個展に、「そうして明くる日も明くる日も」(haku kyoto、京都、2023)、グループ展に、「UTSUROI」(Tokyo International Gallery、東京、2024)、「カンサイボイスvol.2」(nca | nichido contemporary art、東京、2023)など。ARTISTS’FAIR KYOTO(2023)、3331 ART FAIR(2022)に参加。
Information
川村摩那、袁方洲「UTSUROI」
会期:2024年1月13日~2月17日 |