浅野克海は、繊細な波状筆致と原色をベースとした大胆な色使いで、圧倒的な熱量の絵画を描きます。浅野が追求を続けるのは「エネルギー」。これは、浅野が大学時代に「この世界はエネルギーの集合である」と考えたことから始まりました。光、大気、生物や建築物といったものも、目には見えないエネルギーから成り立っていると感じた浅野。エネルギーにより成り立つ世界で、人間はその一部として変化と循環を繰り返しています。のちにこの考えは、あらゆる物質の構成要素を素粒子とし、さらにそれを「振動するひも」として解釈する「超ひも理論」とも融合し深まっていきます。また、浅野はエネルギーの「波動」を表現するために、水面の振動によって波を生じさせる技法「マーブリング」に親和性の高さを感じます。ここから着想を得た波状筆致と、厚い絵具と絵筆との交差による集積を、浅野は「エネルギーの技法」と名付けています。
浅野の代表的なシリーズに、ファッション雑誌をモチーフにしたシリーズがあります。きっかけは『ELLE Brasil』の表紙を飾ったAIロボット・ソフィア(*1)を描いたことでした。そこで浅野は、雑誌の表紙は購入してもらえるよう、顧客を惹き付ける強い「エネルギー」が必要とされていると感じます。それから雑誌のシリーズを展開しています。近年は、筆致だけで表現していた「エネルギー」を、絵画の構造そのものにも組み込む試みを展開。破られたり、破った部分をねじられたりした不安定なキャンバスに細やかな筆致で色をのせて、通常は表から見えないキャンバスの裏側を剥き出しにすることで、見えない世界と見える世界は同時に存在しつながっている、というエネルギーの次元を超えた共鳴、変化、循環を表現しています。
この世界の一要素としてエネルギーを生み出すのも、人間だからこそできること。押し寄せるエネルギーの波動のなかで「ただただ、魂を震わせたい」と言う浅野は、絵筆と絵具を交差しエネルギーを集積させながら、魂が震える瞬間に自身を導いていきます。
*──香港を拠点とする企業ハンソン・ロボティクスによって開発されたソーシャルヒューマノイドロボット。これまで「人間を滅ぼす」など衝撃の発言によって、大きな注目を集めた。
《The New Style》(2023)
《GLAM LOOK》(2023)
《let go》(2023)
《Superstring Human》(2024)
《エネルギー(聖炎)》(2024)
プロフィール
浅野克海
1997年愛知県生まれ。2020年名古屋芸術大学美術学部美術学科洋画コース卒業、23年東京藝術大学大学院絵画専攻油絵研究分野修了。あらゆる物質の構成要素を素粒子とする量子力学の体系を絵画に応用し、人や物質が持つエネルギーの波動を感じさせる波状筆致「エネルギーの技法」を用いて絵画制作をする。また、絵画そのものが変形し、力学的エネルギー自体が立ち現れる空間をつくり出す。主な展覧会に、「サヨナラ!/The Penultimate Truth 最後から2番目の真実」(日本橋アナーキー文化センター、東京、2023)、個展「魂を震わすエネルギー」(myheirloom、東京、2023)など。「第13回CBC翔け!二十歳の記憶展」グランプリ(2018)、「第71回東京芸術大学卒業・修了作品展」帝京大学買上げ賞(2023)、「アートアワードトーキョー丸の内2023」グランプリ受賞。
Information
「Window Gallery in Marunouchi―from AATM」
会期:2024年1月12日~3月17日 |