2023年10月にオープンしたSHUTL(シャトル)のオープニングを飾る展示シリーズ「伝統のメタボリズム」。施設のコンセプト「未来のオーセンティック」を体現する企画として、伝統という概念そのものを問い直し、新陳代謝を促進するさまざまな表現を「言葉と文字」「様式の変容」の2期にわたってこれまで紹介してきました。シリーズの最後を飾る第3期は、「伝統のメタボリズム〜見立て〜」。本展では、芸術の分野における「見立て」という表現手法に着目。日本において古来より継承され、かつ新陳代謝を続ける表現手法である「見立て」を用いて自らの表現を行う、5名の新進気鋭作家を選出しました。
「見立て」とは対象をそのまま描くのではなく、他のものになぞらえて表現する手法であり、日本の様々な芸術様式で用いられている技法です。例えば、扇子や手拭いを用いて様々な設定やシーンを表す落語や、石や木など自然物を置くことでそこにあるはずのない情景を想像する日本庭園における水石、盆栽など。本来それでないものを違う素材や手法、語彙などを用いて本物の代用として表現する行為は、日本人にとってはとても親しみがあり、無意識のうちに「見立て」ていることすらあるのではないでしょうか。近代の芸術表現においては、風景や心象などを絵画技法で表現する抽象表現や、空間全体をコンセプトによって「見立て」るインスタレーションなど芸術の批評的視点の発展に従って、「見立て」は多岐にわたる表現に用いられています。
つねに伝統的な表現手法として受け継がれながら、その時代の価値観の流入により変容し続け、いまではより自由に取り入れられている。「見立て」は、まさに時代に応じて新陳代謝が行われてきた技術とも言えるでしょう。出展作家の作品から、鑑賞者は現在形の「見立て」を発見し、自身の想像の余白と可能性に気づくことになるかもしれません。会場に足を運ぶとともに、ぜひオンラインでもお楽しみください。
「伝統のメタボリズム〜見立て〜」出展作品
作品画像をタップすると、作品ページに移動します。
※OIL by 美術手帖に掲載する作品はすべて、展覧会会場と併売になります。
展覧会会場で先に売り切れとなる場合がございますが、予めご了承ください。
石場文子
日本画から版画、そして写真へとメディウムを横断しながら制作を続け、近作「2.5」シリーズでは被写体の表面に線を描くことで写真作品のあり方を揺さぶる。
《2 と 3 のあいだ(白の静物)》(2024)
勝木杏吏
野外彫刻や室内彫刻のフィールドで制作し、 近年は鉄を独自の手法で青くした「藍染シリーズ」を展開する。
《海染 》(2024)
倉知朋之介
日常生活で脈絡なく発生する「可笑しさ」をテーマに、疑似言語という不思議な言葉を用いた登場人物の映像を軸としたインスタレーションなどを制作し注目を集めている。
《チョコチップクッキー&ミルク》(2022)
佐貫絢郁
日本画を学んだのち、関西を拠点に風景や肖像からそれら固有の要素を間引き、特定のパースペクティブを逸したイメージをつくり出す。
《no title( 数人 )》(2024)
松井照太
京都を拠点に無加工の石をそのまま取り入れる立体作品を中心に制作し、最近は室内向けの壁掛け作品や、樹脂やガラスなどの現代のマテリアルも用いて新たな角度から石を愛でる作品を発表している。
《F=mg(sinθ1+sinθ2) (F=support medium) #2》(2024)
SHUTL
SHUTLは2023年10月にオープンしたアートスペース。現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることによって、新たな表現方法を模索することのできる、開かれた創造活動の実験場(ラボ)。建築家の黒川紀章らが提唱した「メタボリズム(新陳代謝)」運動の代表的な建築として知られる、中銀カプセルタワービルの2基のカプセルを常設している。様々なジャンルのアートやクリエイティブを横断しながら、新たな「未来のオーセンティック」を打ち出す。
Information
SHUTLオープニング展示シリーズ 第3期「伝統のメタボリズム〜見立て〜」
会期:2024年2月23日~3月17日 |