4月26日より東京都現代美術館にて「サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス」が開催(会期は6月29日まで)。世界的な文化アイコンであり、アーティスト、詩人であるパティ・スミスとベルリンを拠点に活動する現代音響芸術集団のサウンドウォーク・コレクティヴ。彼らの共同制作は10年以上にわたって継続し、べネチア・ビエンナーレ(映画部門)や、NYのクリマンズット・ギャラリー、コロンビアのメデジン近代美術館をはじめ、世界各地でライブパフォーマンス、展覧会、上映、詩の朗読会、ワークショップと多岐にわたる形式で両者のコラボレーションによる作品を発表してきました。彼らの最新プロジェクトとなる「コレスポンデンス」は、日本では初の公開となります。
会期にあわせ、アニエスベー ギャラリー ブティックより、デニス・モリスが撮影したパティ・スミスのポートレート作品が出品されています。「クイーン・オブ・パンク」の異名をもつ伝説的アーティスト、パティ・スミス。ニューヨークのパンクシーンを象徴するパティの姿を、イギリスを拠点に活動する写真家デニス・モリスがとらえた貴重な作品群をご紹介します。ボブ・マーリーやセックス・ピストルズ、マリアンヌ・フェイスフルの名盤『ブロークン・イングリッシュ』のカバー写真など、音楽と深く結びついたイメージを生み出してきたモリスによる1枚は、パティ・スミスの強烈な個性と時代の空気を鮮やかに映し出しています。この機会に、モリスにしか撮りえないポートレイト作品をオンラインでもお楽しみください。
《Patti_Smith_3B》(1976)
《Patti_Smith_14B》(1976)
《Patti_Smith_ salute_18》(1976)
《Patti Smith with shopping bags_2A》(1976)
アーティストステートメント
「HI, I’M PATTI」
ロンドン - 1976年10月
噂が広まっていた——パティ・スミスが、バンドを引き連れてロンドンにやってきた。アルバム『Horses』はリリースと同時に「持ってなきゃいけない一枚」になり、パンク・ムーブメントのなかでひときわ輝く光だった。
聞いた話では、ロンドンの「イケてるやつら」だけが招かれる、アルバムの即興朗読会が開かれるらしい。もしくは場所さえ知っていれば、誰でもフラッと現れてよかった。
俺は招待された。興奮して向かったその場所は、いつものレコード会社の空気じゃなかった。完全に「パティの日」だった。集まったのは50人くらい。何が起きるか誰も知らない。酒がまわり、煙が漂い、笑い声が飛び交う——何かが「起きていた」。そして、そこにパティがいた。そう、まさに「ハプニング」の中心に。
彼女はとにかくクールだった。やがて、すっとマイクの前に立って、こう言った——「Hi, I’m Patti」。そしてアルバム『Horses』に収められた自作の詩を読み上げ始めた。
その詩は、美しく、怒りに満ち、自由の匂いがしていた。言葉が波のように流れていく。会場は静まり返っていた。誰も口を開かない。ただ、女王がマイクに立っていた。
そしてその「女王」は、俺たちの想像をはるかに超えていった。始まりと同じように、突然すっと終わらせた。観客は息をのんだまま——もっと聴きたかった。でも、どうやって頼めばいいのかもわからないし、それを言っていい空気なのかもわからない。
俺はタイミングを見た。あの「美」が読まれていた瞬間、これまで体験したことのないような美しさが流れていた。——通じ合った。
その流れの中で彼女が言った。「ロンドンを案内してくれない?ラドブローク・グローヴを歩きたいの」「もちろん」と俺。「何時に会う?」そして、翌日また会った。
これらの写真は、あの朗読会の日と、その翌日のラドブローク・グローヴでの記録。ぶらついて、買い物して、ポーズを決めて、空気を感じて、笑って——とにかく、「起きていた」。
FREE MONEY!
—— デニス・モリス
Artist Profile
デニス・モリス
レンズを通して非凡な人物たちに深く迫る作品群を制作する英国人フォトグラファー。音楽シーンと密接な繋がりをもつモリスは、これまでにボブ・マーリーやセックス・ピストルズ、マリアンヌ・フェイスフルのアルバム『ブロークン・イングリッシュ』のカバー写真など、象徴的で印象的な写真作品を制作している。英国サウスオールにあるシーク教徒のコミュニティーの本質を写し出した作品は、後にイングリッシュ・ヘリテッジ(イングランドの歴史的建造物を保護する目的で英国政府により設立された組織)の買上コレクションとなった。作品集として『Bob Marley』、セックス・ピストルズの『A Rebel Life; The Bollocks』、1960~70年代の英国黒人文化を記録した『Growing Up Black』が出版されている。作品はこれまでに、今日美術館(北京)、ラフォーレミュージアム原宿(東京)、アルル国際写真フェスティバル(フランス)、フォトグラファーズギャラリー(ロンドン)、インスティテュート・オブ・コンテンポラリーアーツ(ロンドン)、テート・ブリテン(ロンドン)、メトロポリタン美術館(NY)、京都国際写真祭(日本)、ロックの殿堂(クリーブランド)など国際的に展示されている。
