EKKO Shirakawaの作品販売がスタート。「フォークロア」を目指す魂の旅

OILがおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、EKKO Shirakawaです。OIL by 美術手帖ギャラリーでの個展「Jade」の開催にあわせて、その全出品作を「OIL SELECTION」として紹介いたします。

文・構成=髙内絵理(OIL)

 「美術」と出会ったきっかけは、ティーンエイジャーの頃、映画や音楽漬けで過ごした日々にあるとEKKO Shirakawaは振り返ります。両親の仕事の都合で各地を転々と動いていたEKKOが青春時代を過ごしたのは宮城県・仙台市。当時、EKKOは教科書の代わりに雑誌を夢中で読み漁り、塾ではなくレコードショップに行き、視聴コーナーで世界中の音楽を深堀り。勉強ではなく、サブカルチャーからたくさんのインスパイアを受けたと話します。例えば、映画監督でありグラフィックデザイナーであるマイク・ミルズがソニック・ユースのアルバム『WASHING MACHINE』(1995)のアートワークをデザインしていたり、そのデザインと現代美術家のマイク・ケリーがデザインしたロゴを落とし込んだTシャツがアパレルブランド「HYSTERIC GLAMOUR」から販売されていたり。そういった映画や音楽、ファッションから「美術」にたどり着いた彼女にとって、「美術」は座学で学ぶものというよりも、遊びの延長線上で生まれた、肩に力を入れる必要のないもの。格好良くて、自分をたぎらせてくれるもの、そして信じられるものでもありました。

 美術の道を志して大学の油画専攻に進むと、そこでは「カルチャー」の延長線上にあると思っていた「美術」は少し様相が違いました。アカデミックな周囲の嗜好にふれて、EKKOは学術としての「美術」を深め、素材の研究に没頭していきます。コマーシャルギャラリーの影響力も大きくなっていた2007年頃、同時期に音楽系SNSの先駆けとも言われる「Myspace」(*1)が登場し、そこで多数のクリエイターに出会い、10代の頃「美術」に感じた居場所を見つけられたEKKO。EKKOは既にある枠組みのなかに入っていくことよりも、まだ見ぬ世界へと関心が沸いていきます。「死の画廊」という意味の「galeria de muerte(ガラリア デ ムエルテ)」名義で、パートナーとともにメキシコやスウェーデンのアートフェアへの出展や海外作家との交流を通して旅を続けます。

 以前は旅先での風景を鑑賞者それぞれの物語を想起させるよう作品に落とし込まれるものでありましたが、近年、旅は「精神世界の旅」を意味するようになってきています。彼女にとって制作は、「『儀式』であり『快楽』を感じる側面がある」と言います。近年始めた陶作にも、ぐるぐると回転し続けるろくろに向き合う行為が「瞑想」のような感覚を覚えていると言う。現在はそんな「魂の動き」を旅として、制作に反映させています。

 EKKOのシグネチャーである、「顔をもつ太陽」をモチーフとした風景画は、「まる(=太陽)、横棒(=地平)、さんかく(=道)」というシンプルな構図で構成されています。かつて江戸時代の禅僧であり画家の仙厓(1750~1837)により図形のみで描かれた《〇△□》(まるさんかくしかく)では、この世の存在すべてを3つの図形に代表させ、宇宙を画面のなかで表現したと言われています。「○」が象徴する満月のように悟りの境地にいたる修行の過程を図示したという説もあります。彼女の作品における太陽は、修行や儀式のような自身の表現行為の追求を表しているのかもしれません。また、陽が沈み、上るという「再生」や「生命の循環」を表しているのかもしれません。

 いっぽうで彼女は、「たとえ骨董市に置かれたとしても、なんだか良いと思わせる絵の持つ強度が理想」と話します。そこでは国籍や性別、社会的属性は問われず、ただ絵の本質が問われている気がするからです。世界中に太陽崇拝の神話が存在するほど人類にとって重要な存在である太陽。人種や生まれた国を問わず、人々は太古から自然のなかに大きな力を感じ、その目に見えない存在を「神」として信仰の対象としてきました。彼女にとって、美術も、ときに太陽のように大きな力を持ち、また信じられるものとして自身を照らしてくれるもの。「フォークロア」を目指した魂の作品群を感じてください。 

 

*1──2003年に創業された、世界中に会員が存在する音楽、エンターテインメントを中心としたソーシャル・ネットワーキング・サービス。会員に対し、個々のプロフィールページ、音声ファイルや画像ファイルの公開などのサービスを提供。

 

 

《Kiln -red path-》(2025)

 

 

《戯れの天と地 笑う道化》(2024)

 

《FIRED SUN / CROWN》(2025)

 

《Exvotos series #014》(2019)

 

 

編集部

Artist Profile

EKKO Shirakawa

1982年⽣まれ。2005年東京藝術⼤学美術学部絵画科油画専攻卒業、07年同大学⼤学院美術研究科修⼠課程絵画科⽊版専攻修了。音楽、文学、旅の感覚や個人的な経験をもとに、「顔をもつ太陽」をモチーフとした風景画や陶の立体を制作する。主な個展に、「惑う星」(OGU MAG、東京、2024)、グループ展に、「The 20th Anniversary ‘LOOP HOLE Expo. 2025’」(府中市美術館市民ギャラリー、東京、2025)、「パランティア(Seeing Stone)」(新宿眼科画廊スペースO、東京、2024)、「It's All Lies」(アキバタマビ21、東京、2023)など。「3331 Art Fair 2021」(東京)、「ZONA MACO 2009」(メキシコ)、「SUPER MARKET 2012」(スウェーデン)などに参加。

Information

EKKO Shirakawa個展「Jade」

会期:2025年10月3日~26日
会場:OIL by 美術⼿帖ギャラリー
住所:東京都渋⾕区宇⽥川町15-1 渋⾕パルコ2階
開館時間:11:00~21:00
休館日:施設の定休日に準ずる  
観覧料:無料

 

イベント「Weekend Tearoom」開催
日時|10月11日(土)、12日(日)
時間|13:00~17:00頃予定
※日時は変更となる可能性があります
※作家在廊予定
※予約不要・入場無料