アメリカ人ジャーナリストでありキュレーター、編集者、出版者であるキム・ハストライター（Kim Hastreiter）の作品集。1984年に創刊されたニューヨーク発のカルチャー誌『ペーパーマガジン（PAPER MAGAZINE）』の共同創刊者でもある作者は、この50年もの間、膨大かつ象徴的な「もの（STUFF）」を集めてきた。本書は、アート、ファッション、デザイン、写真、書籍、エフェメラなど集めたものを独自に編集し、それを一つのレンズとして用い、歴史上において特別な「ひとかけら」とそれを定義づけた人々の年代記である。それは、「STUFF」というタイトルにふさわしい一冊に仕上げられていると言えるだろう。マンハッタン、イースト・ヴィレッジの教会の地下でアーティストのキース・ヘリング（Keith Haring）と一晩中パーティーを楽しむ日もあれば、役者のフィリス・ディラー（Phyllis Diller）のキッチンで、アートディーラー、キュレーターのジェフリー・ダイチ（Jeffrey Deitch）とプライベート・アート・セールを開催したり、「トレーダー・ヴィックス（Trader Vic's）」でアーティストのサルバドール・ダリ（Salvador Dalí）やパフォーマンス・アーティストのジョーイ・アリアス（Joey Arias）と即興のカクテルを楽しむこともあり、本書では作者の素晴らしい友人たちに出会うことができる。

本書は単なる回想録ではなく、地球上で最も偉大な都市におけるこの半世紀分の文化的なカオスを、ばかばかしく、楽しく、無秩序に駆け抜けていく。たとえこの本を手にする人がベテランでもキッズでも、エセ教養人、アーティスト、デザインマニア、ファッションおたく、スケーター、コレクター、シェフ、映画狂でも、ニューヨーカー、高台の居住区の人間（アップタウナー）、繁華街の人間（ダウンタウナー）、よそもの（アウト・オブ・タウナー）でも、そしてそこにも属さないまったく別の所にいる人でも、本書は、ワシントン・スクエア・パークの上にある作者の庭で一緒に座っているような気分にさせてくれる。そしてそのよく響く声は、何かに取りつかれたような情熱をもって、我々に人生を追い求めるよう願ってくれるのである。

本書の装丁は、ジム・ジョー（Jim Joe）が担当。象徴的なジャケットデザインで知られるドレイク（Drake）のアルバム『If You’re Reading This It’s Too Late』を手掛けた、つかみどころのない、しかし伝説的なアーティストとも形容できるジョーが特別に制作したものである。