【作家による作品解説】
本作は今日の社会における「人間」と「顔」の距離を題材としたものだ。

まず画面上に印刷されたポートレート画像は、作者である布施琳太郎が「Stable Diffusion」という人工知能（AI）のモデルとの対話を通じて生み出されたものである。

具体的には、次のようなプロセスで制作はなされた。まずこれまで平面作品の題材としてきたセルフィー（インターネットに流通する自撮り画像）をデジタル・コラージュし、Adobe Photoshop上で加筆した。そして僕が制作した画像をAIに提供した。数億枚のキャプション付き画像によってディープラーニングをしたAI「Stable Diffusion」は、僕の制作した画像に基づいたバリエーションを数百枚生成する。さらにこれらの画像を用いて新たなコラージュを制作し、加筆した。以上のプロセスを通じて作られた誰でもない顔。それは僕とAIの対話による拡散と統合を通じて生み出されたものである。最後に印刷された顔に対して、青い絵具を擦り付けた。画像を見ながら、触れた。しかし青色や接触は当の画像になんの影響もない。ここで最後に擦り付けられた青い絵具が、人間とAIの二者による対話の成果物となんの関係も結べないこと。それこそが本作において重要な点である。

【作家プロフィール】
1994年 東京都生まれ。
iPhoneの発売以降の都市において可能な「新しい孤独」を、情報技術や文学、そして洞窟壁画をはじめとした先史美術への綿密なリサーチに基づいた作品制作、展覧会企画、テキストの執筆などを通じて模索、発表している。