アメリカ人作家でモデル、アーティスト、ライター、活動家であるクラーク・ヘンリー（Clark Henley）の作品集。1982年に「Sea Horse Press」より刊行された同作の復刻版である本作は、廃盤や未発表のアンダーグラウンド・ミュージックや現代のバンドをリリースすることを目的に発足した「DARK ENTRIES」より40年ぶりに刊行された一冊である。

このマニュアルは皮肉たっぷりに作られており、ゲイの男性がより「ブッチ（BUTCH）」、つまりステレオタイプ的な目線での男性に見える方法をアドバイスするもので、女性誌で用いられるようなスタイルで構成されている。「生まれつきブッチである者はいない。人は赤ん坊として生まれ、すぐにどっと涙を流し、それは最もブッチらしからぬことである。」そう宣言する本書は、「ブッチ」であることが（例えとして）よくあるドラッグの一つに過ぎないということを思い出させてくれる、1980年代の陽気なカルト・クラシックである。この一冊は、「ブッチ」になりたい人たちに、歩き方、話し方、立ち方（あるいは寄りかかり方）、服装、さらには 「フリークアウト・ゾーン（極度の興奮状態）」を避けるためにどのような薬物を使用すべきかまで教えてくれる。作者は、（どうしても必要な場での）正しい座り方を示すなど、大袈裟な演出が施された（少しゲイっぽい）写真の中で魅力的なモデルとして登場しながら、同時に我々のまわりのゲイの人々へと注意を促す。 「話すときは手を添えてはならない。」といったように。

1982年に刊行されたオリジナル版は、数々ののベストセラーリストに名前を残し、1976年にニューヨークで刊行され1995年まで続いたゲイ向けの雑誌「クリストファー・ストリート・リーダー（Christopher Street Reader）」の表紙も飾った。今日、オリジナル版の古書は500ドル以上の値段が付けられている。本作は、作者の家族の支援により再版が叶い、時代を超えたユーモアを新しい世代と分かち合うことが可能になった。

作者は1950年にサンフランシスコで生まれ、生まれ育った国と都市を淫らなゲイの楽園として新たに想像したイラストマップ『A Butch LOOK at America』、『Alligator Oz: Tails of the City』を生み出したことで知られる。1979年、自身のキャリアをさらに追い求める野望を抱いてロサンゼルスに移り住んだが、1986年にHIV（ヒト免疫不全ウイルス）への感染を診断されたにち、家族と暮らすために生まれ故郷のサンフランシスコに戻り、1988年にこの世を去るまでの晩年をHIV/AIDS活動家として過ごした。